【アニメ感想】このはな綺譚

目次

  1. 前書き
  2. 温泉旅館で働く狐耳少女たちの日常
  3. 3組の百合だったり6人+αの家族だったり
  4. 原作の旨味を活かす再構成
  5. キャラクター
    1. 棗&蓮
    2. お菊&瓜ノ介
    3. 女将
    4. 八尾比丘尼
    5. その他
  6. 総じて

前書き

今季、最も熱かった百合アニメ
かわいいとか尊いとか百合^~とか以外の語彙を失うレベルで、凄まじい中毒性があった

筆者が救いがたい百合豚であることはこの作品について語る上では特に言うことでもないだろう
原作コミックス、此花亭奇譚上下巻及びこのはな綺譚6巻までのネタバレを含むので、アニメは見たけど原作はまだ、という人はぜひそちらを読んでからこの記事の続きを読んでほしい

温泉旅館で働く狐耳少女たちの日常

このはな綺譚は温泉旅館 此花亭 で働く狐耳の生えた少女6人 + それを取り巻く人々の、ちょっと不思議だったり涙したり笑ったりする心温まる話
アニメは原作の此花亭奇譚上巻、柚が此花亭に働きに来るところから始まり、原作コミックス3巻までの内容をうまく再構成している

OPで上りに見えるが実は下りの階段で次々に登場するのは各話のゲストキャラクター
メインの6人に加えてゲストキャラにもそれぞれ物語があり、柚を始めとする此花亭の面々とのふれあいを通してお互いに己の迷いに答えを見つけたり、成長したり、絆を深めたりする

頭の中すっからかんで見れるゆるい日常モノでありながら、各話が実に良く練られているかつキャラクターの魅力がこれでもかと引き出される構成なので、何度でも見返したくなる

3組の百合だったり6人+αの家族だったり

柚と皐、蓮と棗、桐と櫻という、3セットの組み合わせが大変きましていて良い
このはな綺譚の良いところは三組が別々に動くだけではなく、それぞれ全員が全員を見ている家族らしさにある

大天使柚ちゃんはあまりにも素直すぎてみんな大好き
桐さんは仲居頭として全員をまとめる役
皐はスタンドアロンプレイヤーかと思いきや、柚との出会いで変わったのか、なんだかんだで他の面々を信頼している節がある
蓮と棗も両思いながらきちんと他のメンバーを見ている
櫻だけはやや幼く自己中心的な感じはするが、そんな櫻も年相応の経験が描かれている

きましたわァーッ!とテンションが上がるシーンもあれば、互いの何気ないやり取りに信頼を感じてほっこりするシーンもあり、筆者の心にダイレクトに刺さった

原作の旨味を活かす再構成

アニメ化されたのはすべて原作にあった話で、その順番がちょっと入れ替わっている
対応する話は以下の通り

アニメ漫画
1話「さくやこのはな」此花亭綺譚上巻「星を落とす」「花の散るらむ」
2話「春の旅路」此花亭奇譚上巻「春の旅路」
3話「恋待ち焦がれ」此花亭綺譚上巻「此花亭日誌」このはな綺譚3巻「恋い待ち焦がれ」
4話「夢の浮き橋」このはな綺譚1巻「たまごのみる夢」「花嫁御寮」
5話「梅雨送りし」このはな綺譚2巻「恐怖呪いの日本人形」「棚機の娘」
6話「此花亭怪談」此花亭奇譚下巻「此花亭怪談」
7話「夏祭りの夜」此花亭綺譚下巻「夏祭りの夜」(前後編)
8話「かりそめの訪客」このはな綺譚2巻「潮騒」このはな綺譚1巻「てのひら」
9話「泡沫の…」このはな綺譚2巻「泡沫の神様」
10話「姉上襲来」このはな綺譚2巻「一寸さつき」「姉上襲来」
11話「神様の休日」このはな綺譚3巻「神様の休日」「わたしの人形は、よい人形」
12話「大晦日の奇跡」このはな綺譚3巻「大晦日の奇跡」
  • 1話の「さくやこのはな」は、原作では全く別の話のサブタイトルになっている

  • 4話の「たまごのみる夢」「花嫁御寮」は原作では順序が逆

  • 11話の「一寸さつき」「姉上襲来」は原作では順序が逆

  • 8話の前半後半の話がつながっているが、原作では何も関係がない話

    • この関係でか、前半で迷い込んだ子の名前が「松本さん」になっている(後半のオヤジさんの運送会社の名前が松本運送)
    • 原作では下の名前は描かれなかったし、「長谷川さん」だった
  • 原作の時間の流れは此花亭奇譚上下巻→このはな綺譚のため、いくつかの話はアニメでは時系列を入れ替えている

    • 特にお菊の扱いに関してこの入れ替えが構成上非常に重要になっている

キャラクター

我らが大天使 柚ちゃん
主人公だけあって、ゲストキャラやメインの面々と一番よく絡むのは彼女
山育ちで尼さんに良い教育を受けたためか、教養があるばかりでなく、悟りに入っているのではないかと思うほどに良い子だし本質をガンガンついていく

皐ちゃんを始め、アニメでは此花亭の仲居やゲストたちを次々に落とすような描かれ方をしているせいか、攻略王なんて呼ばれ方も
悟りすぎていて人間味がないかというとそうでもなく、幼い頃のプンスカ怒る表情も良いし、実は皐ちゃんに1話の時点から惚れている節があるのも素晴らしい
10話の姉上襲来の際に、皐が連れて行かれるかもしれないと知った夜に「我儘ですね」などと自分に対して言ってしまう辺りに、普段あまり見えない彼女の精神的な未熟さが見えてグッとくる
アニメではサラッと流されたシーンではあったが、原作では大きめのコマでじわっと泣いていることは強調しておきたい

1話の「きれいな人だなあ」から既に皐ちゃんに惚れているし、6話の此花亭怪談でもきっちり「腰細い、柔らかい」なんて堪能していたりするのでもっとやってください

皐ちゃんのみならず、蓮ちゃんのことも「可愛い上に面白い人」などと言いながら尊敬しているようである
原作6巻では蓮ちゃんと仲良くなった相手の話を聞かされてヤキモチを焼く珍しい柚が見られる

アニメではよく死にかける印象のある危なっかしい子
(三途の川を渡らされそうになったり彼の世側に引っ張られたり神の道に迷い込んだり)

CVは大野柚布子(おおの ゆうこ)
メインキャラクターを演じるようになったのは2017年からのようだ
とにかく柚の声にピッタリで、気の抜けた声も慈愛に満ちた声も完璧に柚
個人的には10話前半ラストの子犬……ならぬ子狐みたいな「皐ちゃぁ~ん」がベストボイス

プライドの高いクールな仲居のエース……かと思いきや、意外と弱点が多い

  • 優秀だが融通が効かない(1話) これは柚や薬屋との出会いでだいぶ丸くなっただろう
  • 暗闇が怖い(6話)
  • もこもこしたものが生理的にだめ(9話)
  • 寒がり(12話)
  • 子供が嫌い(このはな綺譚1巻)

アニメでは尺の都合上、弱点ばかりが目立ってしまうが、原作ではちゃんと頼れる先輩の優秀さを見せるカットが描かれている
1話で落とされてから柚のことを心配している様子が度々描かれる

棗や蓮、桐に対する信頼も見ていて嬉しい要素
棗に対しては「なぜ非番の日までお前の顔を見にゃならんのだ」(3話)
蓮に対しては「蓮なら失礼はないだろうが」(9話)
桐に対しては「お前がヤキの回った真似してきやがったからキモくてぶん殴っただけだ」(6話)

なお、桐に対するセリフは原作(此花亭奇譚下巻)では「お前が」の部分が「長年の悪友が」と書かれている
桐にはよくからかわれているような描写があったが、長年の悪友という部分が詳しく明かされたことはない
メインでこの二人がガッツリ絡む話はまだコミックスにもなく(せいぜい4巻の「夏の夜の夢」くらい?)、詳細が待たれる

肝心の柚との絡みは「一寸さつき」(アニメでは10話)のラストが激アツ
5巻と6巻の「柚の里帰り」でも大変良い表情を見せてくれるので、柚皐好きなら是非そこまで読んでほしい

CVは秦佐和子
アイドルから声優に転向し、最近は主役級も演じ始めているようだ
ブルーリフレクションの来夢役でもある

クールでありながら弱点の多い皐ちゃんの声芸が完璧で、6話の「へんな声が出てる」シーンは原作のあのコマの良さをパーフェクトに再現してくれている
個人的に4話前半のたまごがくっついた時の「ぬあああああッ!」がベスト

棗&蓮

この二人はセット
柚と皐が先輩後輩の関係なら、この二人は幼馴染百合枠
蓮が一方的に惚れているかと思いきや、棗のほうも実はメロメロというのが良い

実はお菊の命名者は棗
原作では名前をつける行為の重要さが4巻の「縁」で描かれており、お菊との関連は明言されていないが棗は重要な働きをしたのではないかと思われる
何故か柚のことをゆんたん呼びするので、適当にあだ名をつけるのが得意なのかもしれない
棗は蓮や皐を呼び捨てにするが、桐のことは仲居頭ということで一応上司だからか、さん付け
皐に対しては「皐はあーいうヤツだから」と言ったり、相撲観戦に誘っていることからさほど仲は悪くなさそうである

一方、蓮はよくお菊の面倒を見ているシーンが描かれている
裁縫が得意で料理もできて、おしゃれにも抜かりがなく、いわゆる女子力の塊
恋する乙女たるものかくあるべし、という哲学をしっかり持っている(3話の棗との出会いから始まり、5話前半のお菊に対する説教、7話の夏祭り等、彼女のこだわりは一貫している)
その可愛さへのこだわりはもはやかっこいいの域に達しており、原作6巻「片恋の達人」では柚との出会いで成長した様子も合わさってすごく良い

この二人は夏祭りでもメインだったし、中盤にかなり目立っていたように思う
個人的には4話前半の百合妊娠のくだりが最高に好き

棗のCVは諏訪彩花
ブルーリフレクションの千絋、ゆゆゆいの歌野の人
無邪気で中性的な棗の声ピッタリ

蓮のCVは久保田梨沙
メインキャラを演じるのは初の様子
ブルーリフレクションにも出演していたらしいが、特に役名がなかったことからモブ役か
世話焼きで女子力マシマシな普段の蓮ちゃんも、心の中がめっちゃうるさくなる場面も良い演技だった
やはり6話の「かっこいい」を連発するシーンが素晴らしい

普段仕事をしているのか遊んでるのかわからない子
アニメではとりあえずお菊の髪を切りたい子として描かれているが原作ではお菊の髪を切ったのは実は1回だけ
その後、3巻の「わたしの人形は、よい人形」でお菊の恐怖ヴィジョンの中にハサミを持った櫻が現れる以外、ハサミを持って追いかけるシーンは描かれていない

アニメでお菊の髪ハンターとしての印象が強くなったのは、お菊の出番が原作より増えたことによるものだろう

1話で柚や桐ちゃんと会話しているが、その後はほとんど人語を話すシーンが描かれていない(3話のかくれんぼくらい?)
原作でも1巻「このはな綺譚~序の話~」の「おしっこ…」というセリフ以降、6巻「びいどろ横丁」まで人語を話すカットが全くなく、此花亭綺譚下巻の「櫻と河の神様」でも櫻メイン回でありながら一言もしゃべらない
しゃべらないのに存在感がすごい
1話でまんじゅうを食べたり、6話で魚をまるごと口に入れて頬の形すら変わっていたり、10話で皐のための茶菓子をバリバリ食べてしまったり、何かと食べるシーンも多い

CVは加隈亜衣
WIXOSSのるう子、アスタリスクのユリス、ブレイブウィッチーズのひかり、ブルーリフレクションの更紗の人
人語を話さないだけで声は出すという難役だが、その呻き声のような何とも言えない声が良い
でもやっぱり、1話の「桐ちゃんおやじぃ……」が好き

仲居頭として此花亭の仲居たちをまとめるリーダー
現在の6人の中では最古参(ただし、女将と板長のほうが古い)

髪型と青いリボンからセイバー(アルトリア)なんて呼ばれ方をしているが、此花亭奇譚時点では髪を結っていない
(入浴シーンと柚を洗うシーンでのみ、髪を結っているが普段は髪を下ろしている)
その後、1巻の「花嫁御寮」以降は髪を結ったセイバースタイルになっている

桐がメインの話は原作4巻以降のため、アニメの中では描かれていない
リーダーとして仲居たちをまとめつつも、時折覗かせるいたずらっぽい表情が良い
特に10話前半ラストの皐をからかう方法を思いついた時の表情が好き

CVは沼倉愛美
アイマスの響、ハナヤマタのマチ、アルペジオのタカオの人
優しく包容力があり、かつ茶目っ気もある良い演技だった
8話の「私に聞きます?」が嬉しそうで好き

お菊&瓜ノ介

アニメ化にあたっての構成の変更の影響を最も大きく受けたのがお菊
呪いの日本人形の話を前のほうに持ってきて、できるだけ仲居たちと同じ季節を過ごさせてあげたかったのだろう

お菊が登場するにはその悪夢を食べてくれる瓜ノ介が必須なので、4話前半で瓜ノ介が登場
原作の「花嫁御寮」では瓜ノ介はまだ登場していなかったが、アニメではシノに近づいてすぐに興味を失っている様子が見て取れる
これはシノが良い夢であることの暗示で、アニメ版のサブタイトル「夢の浮き橋」にもマッチしている

原作の「此花亭怪談」の時点ではお菊も瓜ノ介も存在しないが、アニメ版では彼女たちが登場することで映像的に不自然になりがちなシーンをうまくつなげている
櫻がお化けと会うシーンは原作では櫻が完全に眠気でスルーし、お化けが「この姿に化けるのはやめておこう」と言う(吹き出しも出ない小さい文字で、だが)
それを実際に加隈亜衣に喋らせるのではなく、お菊に対してハサミをチョキチョキしながら無言で迫る櫻のヤバさをお化けに見せつけることで、「本物のほうがやばい」という面白さをお化けのセリフなしに表現している

その後、「あれ 柚は?」というシーンで櫻がお菊を追いかけているが、原作では小さく「さくらは寝ました」と書かれている
アニメでテンポを崩さずに櫻がどうしているかを表現するために、お菊を追いかける描写が活きている

次の話の「夏祭りの夜」でも、瓜ノ介をナスの牛に見立てるカットに遊び心が感じられるし、柚が「引っ張られる」ことの説明にお菊をうまく使っている
何より、花火を眺めて「行けると良いな」とつぶやくお菊の背中に、スタッフのお菊への愛を感じられた

原作の顔芸も忠実に再現されていたし、お菊を推すなら絶対に見たかった「わたしの人形は、よい人形」を映像で見られたのも嬉しい
あの泣き顔はとてもクる

お菊はCV渡辺明乃
2000年代から活躍するベテラン
禁書のシェリー、Fate/Zeroのナタリア、進撃の巨人のヒッチの人
やはり、11話の「でもありがとう」が好き

女将

此花亭の女将
11話でちゃんと化粧のシーンが描かれたし、12話の「大晦日の奇跡」も期待通りでとても良かった
最初はちょっと高めの声だなと思ったが、12話の演じ分けでこのための緒方恵美かと納得した

12話はFF8のような運命論を感じられてすごく好き

CVは緒方恵美
90年代からの大ベテラン
エヴァのシンジ、カードゲームする前の武藤遊戯、AngelBeats!の直井、ダンガンロンパの苗木辺りが有名か
前半はあまり目立ったセリフはなかったが、その中でも怪談する仲居たちを叱った後の廊下を歩いている時のセリフが印象的

八尾比丘尼

柚の育ての親
柚の菩薩メンタルは彼女の教育の賜物

柚の成長を嬉しく思いながらも送り出すのが辛いシーンが主な見せ場
原作5,6巻の「柚の里帰り」では柚に対して切嗣みたいなことを言い始める

CVは大原さやか
アイリスフィールの人

その他

板長=梢さんであることはアニメでは直接は語られなかった(原作でも4巻の内容)
2話の大桜の宴で牡丹が、11話の昔の此花亭の話のカットに八重さんが出ていたりするさりげない原作ファンサービスがにくい

総じて

キマシ分と、優しい世界、美しい人の心を感じられる素晴らしいアニメだった
原作の順番をうまく組み替えてお菊の可愛さをしっかり描いてくれているのも良い
原作と合わせて見るとまた新しい楽しみ方ができるし、まだまだ映像で見たい話もたくさんある

OPの下り階段からの百合^~の流れは安心感があったし、4種のエンディングもCDを買ったくらいには好き
季節的にぴったりな終わり方も含めて、心満たされる素晴らしい作品に出会えた奇跡に感謝の気持ちでいっぱいである

全話パックか、半分パックが両方出たら買ってヘビロテしたい