【百合作品感想】ツユチル・レター~雨と栞に雨音を~
目次
前置き
本記事にはツユチル・レター本編のネタバレや考察を含む。
グラフィックス
sheepDさんによる繊細なタッチが作品の雰囲気にマッチしている。
誰も彼もお顔が良くて、立ち絵を見ているだけでテンションが上がる。
CGは基本11枚。うち7枚がメインとなるカップルのもの。
百合作品では半ばノルマとなりつつある水族館デートの絵や、ちょっと気まずい相合い傘アタリが、背景の雰囲気も含めて好き。
サウンド
主張しすぎない穏やかな曲で、落ち着いてプレイできる。
テキストがかなり丁寧であるのと合わせて、長時間やっていると眠くなってくる。
シナリオ/キャラクター
本作はメインとなるカップル、湊 汐里と倉橋 海琴それぞれの視点で交互に同じ場面が描かれる。
この性質上、シーンの切り替え後に突然時間軸が巻き戻ったように見えて、読者としては割と混乱する。
脅迫状から始まる恋のキャッチコピーの通り、海琴に送られてきた脅迫状によって二人は出会い、恋仲(?)になる。
彼女たちの繊細な心情の描写、もどかしさの表現が非常に丁寧で、だからこそ気持ちが通じた後の甘さが脳に染み渡る。
しかし、本作は続き物の第一作という位置づけのようで、肝心の脅迫状については一切解決しないままエンディングを迎える。
読者としては、開示された情報の中から諸々類推して次回を待つ楽しみがあり、これはこれで良いと思う一方で、そちらばかりが気になって二人の甘いシーンを見ながらもどこか怖い気持ちもあって、一長一短であった。
湊 汐里(みなと しおり)
色んなものを抱え込みがち、溜め込みがちな1年生。
何かあった場合、とにかく自分の中に原因を求めるような考え方をしているせいか、はたから見ると他人にさほど興味がないのではと疑いたくなることも。
そんな彼女が海琴から告白され、少しずつ海琴に興味を持って惹かれていく変化が本作の見どころの一つ。
あらゆる言葉を真正面からダイレクトに受け止めるハイパー天然クソ真面目ちゃん。
あまりにも忍耐強すぎて、序盤のトゲトゲ海琴先輩の態度に耐えられたのは彼女だからと言う他ない。
溜めて溜めて、そして決壊してしまうシーンも良い。
CVは門脇舞以。スト魔女のサーニャ、アトリエアーランドシリーズのロロナ先生の人。
倉橋 海琴(くらはし みこと)
汐里とは正反対に、堪え性のない2年生。
嘘をついたり裏表を作るのが自他共に極端に苦手で、誰かが嘘をついているのも嫌いだし、自分で嘘をつき続けるのにも耐えられない、正直者。
年下の汐里が何でもかんでも受け止めて飲み込んでくれてしまうせいで、もうちょっとしっかりしてくれー!と画面の前の筆者はもどかしさにふるえていた。
真の告白でしっかり踏み込んで、汐里のことを抱きとめてくれたシーンは大変良かった。
妹の結海のことを非常に大事にしており、結海のことになると饒舌になる。
CV倉知玲鳳。バンドリ RASのパレオ、スタリラの文の人。
倉橋 結海(くらはし ゆみ)
海琴の妹。姉が精神的に不安定になりがちなところ、こっちはどっしり構えている様子。
肉体的にはかなりの病弱体質で、生きているのが不思議なほどだと言う。
学校の第二保健室をほぼ私室化しており、信頼する人以外寄せ付けない、偏屈な仙人タイプ。
自分のせいで海琴に負担をかけている現状を憂えている様子があり、作中の描写からも十中八九脅迫状の犯人ではないかと筆者は睨んでいる。
エンディング間際に碧先輩とかなり衝撃的な会話をしていたものの、このポーカーフェイスはそれすら計算のうちにやっていそうである。
CV春岡沙和。
相場 真帆(あいば まほ)
汐里のクラスメイト。噂好きの明るい子。
最序盤は海琴先輩がトゲトゲで、汐里もそれを抱えてどんよりしているので、割とこの子が救い。
汐里と仲が良く、ちゃんと汐里の意思を汲んでくれる、作中一の良心。噂好きだからと言って、汐里を傷つけるような話は望んでいない。いい子。
結海に信頼されている一人。
エンディング直前で靴箱の中に何かを見つけた様子だったので、次回作は彼女がメインになるのだろう。
碧先輩との絡みもあり、筆者はこの二人が熱いのではないかと想像している。1
CV戸坂美月。
立花 碧(たちばな あおい)
3年の女たらし。生徒会議長。
気に入った子には声をかけて口説く。汐里もその対象にしており、口説いているところを真帆に咎められている。
海琴との関係に悩む汐里を口説くシーンは、口説いているだけでなく導いているように、あなたたち二人の付き合い方はアンバランスすぎると、優しく諭してくれているようにも見える。彼女、ただの女たらしではない。
アルティメットに良いお顔と金色の瞳、鈴を転がしたような声に加えて余裕のある人格者と来たら、これはもう惚れるなというほうが難しい。筆者も作中で一番好き。
終盤の海琴や結海に対する鋭い視線さえもゾクゾクしてしまう。きっと、作中のモブになって登場人物に横恋慕しつつも振り向いてもらえない願望を持つ人はこんな気持ちなんだろう。2
真帆ちゃんと並んで次回作のメインになると筆者は推測している。
CV清水愛。キマシタワー及びタマリマセンワーの人。
伏見 凪沙(ふしみ なぎさ)
海琴のクラスメイト。あまり群れたがらず、海琴とは馬が合う。
新聞部所属だが、本人曰く環境問題などを取り扱うお硬い新聞部なので、特にゴシップネタを集めているわけではない。
ショートカットのイケメン女子。
あっさりした性格で、海琴の脅迫状の件を相談されたときの態度から、ある程度は親身になってくれるものの、一線を越えて踏み込まないドライさを持っていることがわかる。
脅迫状の件についてはかなり冷静に分析しており、動機が善意によるものではないかというところまでたどり着いている。
彼女の頭脳ならもう少し踏み込んで情報を集めれば真実に容易くたどり着いてしまうだろうが、彼女は自分で必要と感じた以上踏み込むことをしないのである。
CV岡本理絵。
脅迫状の犯人に関する考察とか予想
筆者は、十中八九結海が犯人だと考えている。
作中から読み取れる情報だけでは、おそらく大部分のプレイヤーがこの予想にたどり着いたことだろう。
結海には動機がある。
自分を大事にするあまり、自分に依存しがちな海琴は、危うい。
自分がいつ死んでもおかしくないと事あるごとに言う彼女は、自分がいなくなった後、海琴を支えてくれる存在を求めていたに違いない。
海琴が結海に汐里を紹介しに来たときの「これからは汐里さんに甘えるのよ」は明らかにそういう意図だ。
怪我をしたのも自作自演で、海琴を追い詰めて脅迫状に従うように仕向けたのではなかろうか。
碧先輩が脅迫状の件について何か感づいた後、海琴へ向けた鋭い視線は、姉妹が共犯であったと誤解したからかもしれない。
碧先輩は、結海が何か噛んでいることには気づいており、エンディング間際にカマをかけるようにして第二保健室へやってくる。
ところが、結海はすでに次の手を打っていた。ターゲットは真帆と、おそらくは碧先輩だ。
碧先輩への「大好きよ」は嘘ではなく、信頼している相手、自分がいなくなる前に3幸福になるべきと思っている相手であるという意味だろう。
一連の事件は、結海にとっての終活だ。
姉や友人たちの、幸福になった姿を夢に見ながら眠りにつく。そのための準備なのだろう。
確かに、反則的な手段を用いて人間関係を引っ掻き回せば、信頼を失う。
しかし、それで良い。自分への信頼を失ったとして、友人たちが幸福に生きてくれるのであれば、それが結海にとっての勝利条件。逃げ切り勝ちだ。
そ、そんなことが許されてなるものか……ッ! 無様に生きて自由に苦しんでツケを払え……ッ!
などと、筆者は歯噛みしながら次回作を楽しみに待っているというわけである。
総評
脅迫状の件が解決せずにエンディングを迎えた時は肩透かしをくらったような気分だったが、それはそれとしてすれ違うもどかしさとか踏み込んだ後一気に甘くなる空気だとか、碧先輩とか碧先輩とか碧先輩とかがクリティカルにヒットした。
序盤から中盤にかけての重苦しい空気を乗り切ってしまえば、あとはドロ甘幸せ空間4なので、GLを求める百合好きには是非おすすめしたい。
とにかく不穏な予想でヘロヘロになっているが、だからこそ次回が待ち遠しい。