【ゲーム感想】こちら、母なる星より

目次

  1. 前置き
  2. グラフィックス
  3. サウンド
  4. シナリオ/キャラクター
    1. 釋尾 奏心 ときお かなこ
    2. 金刺 玲頼 かなさし あきら
    3. 比企 沙織 ひき さおり
    4. 本多 百年子 ほんだ もとこ
    5. 双木 夏樹 なみき なつき
    6. 阿閉 春海 あずち はるみ
    7. 百合要素
  5. システム
    1. オートモード切り替え
    2. 常にセーブできるが、開始地点はチェックポイント
    3. ロッカーは強制オートモード
  6. やりこみ
    1. トロフィーコンプリート
      1. CGコンプリート(2022/01/25追記)
      2. サトミの謎
      3. ゆっくりしていったね!
      4. アイテムコンプリート
  7. 総評

前置き

筆者は前作 じんるいのみなさまへ をプレイ済み。
本記事には、前作から本作2周目エンディングを含めてシナリオに関わる重大なネタバレを含む。

本シリーズの魅力はそのシナリオにあるため、本記事はぜひそれを体験した上でお読みいただきたい。

筆者がプレイしたのはPS4版であるため、PS4版について記述する。

グラフィックス

立ち絵は前作から引き続き、春夏冬ゆうさん1が担当している。
目パチ口パクも続投。それに加え、本作では立ち絵がキャラクターにつき3方向分用意されており、ストーリー上の演出に使われている。
今作では演出上の立ち絵の使い方が独特で、見ていて楽しかった。
沙織と百年子のハグのシーンとか、物陰から覗く春海と夏樹とか、春海の反応を期待する夏樹と、期待されつつもあえてスルーする春海のシーンあたりが印象深い。

CG枚数は確認できているだけで34枚。2
ふたりセットで描かれている絵が多く、どれもかわいい。
4章のトイレに行くなこあき、5~7章の飯シリーズ、さおもとプラネタリウム、そしてラストのこちら、母なる星よりの絵が特に好き。

本作では前作のような3Dグラフィックによる探索パートがまるごとなくなっており、現地を知っていると楽しめる要素はテキストで表現される範囲にとどまった。
寂しい気持ちがないと言えば嘘になるが、前作のような虚無がなくなっただけ良かったという気持ちも。

OPムービーは前作同様だが、表現のクドさはなくなったように思う。
4章開始時に再生されてそれっきり、繰り返し見るにはその時点のセーブデータが残っていないといけないので、前作ほど印象に残らなかったとも言える。

UI周りはだいぶおしゃれになった印象がある。

サウンド

前作同様。基本的に穏やかなBGMで、シナリオに没頭するのを邪魔しない良い曲ばかり。
逆に言ってしまうと、同じような展開が続く4~7章辺りでは、睡眠導入力がかなりあって、筆者も度々寝落ちしかけた。

前作のような、BGMの重複再生やジングルの奇妙な使い方といった粗は本作ではしっかり潰されており、その意味ではBGM、SE周りでのストレスはなかった。

ボイスについては、前作ほどではないがまだ粗が残っている。
声優の演技自体は全く悪くないし、文脈とズレたイントネーションになっている部分もなかった。
ボイス抜けや指定ミスで表示されるセリフと再生される音声がひとつずつズレる箇所があったり、一箇所だけ春海のものと思しきテキストを沙織の声優が読み上げてしまい、唐突に春海のモノマネをしながらも誰にも反応してもらえない沙織が登場してしまったりした。
音量バランスもシーンによってはおかしく、統一されていない。特定の誰かの声が聞き取りにくくなるシーンも。

シナリオ/キャラクター

本作の最大の魅力は前作同様、やはりここにある。

前作で語られた通り、本シリーズの世界観では、500年前に大流行し地上の多くの生物を死滅させた凶悪なウィルス、アマルゴーサ・ウィルスに感染した人を、治療のためコールドスリープさせて地球に残し、他の人類は宇宙へ脱出している。
前作の肝となっていたこの展開を知っているだけに、本作ではあまりそれが明かされたときのインパクトがないのでは、とプレイ前には危惧していたのだが、そんな心配は全くの杞憂であった。

船上施設のカプセル型のベッドから目覚めた奏心たちは、友人と一緒にクルーズ船のツアーに参加したという体で共同生活を始める。
前作よりも明らかに設備的に優遇されているが、どういうことだろうという違和感をプレイヤーの中に残しながら、ゆっくりと真実が明らかになっていく展開は良かった。
池袋の街に出る頃には4章で、OPが再生されるのもそこ。かなり気の長い前振りだったが、キャラクターの把握や前作との差異を考えながら読んでいれば飽きることはなかった。

楽園に到達してからのサバイバルフェーズは、前作よりもかなり解像度を上げて描かれているように思う。
探索パートがなくなった分、彼女たちが生きるために環境を整えたり、食料を確保したりする展開を文章パートで表現したのだろう。
前作にも登場したチートアイテム、MND酵素の改良型によってだいぶブーストはかかっていたが、それでもこの4~7章の生活改善フェーズはかなりゆったりした展開で、筆者は幾度か寝落ちしかけた。

ところが、8章 空色の階段から怒涛のネタバラシフェーズが始まる。
人工知能ゴフェル3が明かした真実があまりに衝撃的で、筆者は画面の前で素っ頓狂な声を上げてしまった。
作品タイトルと合わせて、見事に騙されてしまった。

その驚きから立ち直る間もなく、9章 Share emotions で家族からのメッセージフェーズ。
奏心と玲頼だけ、メッセージがふたり分一緒になっており、そこで語られた内容がまた衝撃的であった。
8章前に百年子が言いかけてたときに、「赤ちゃん? いや、まさかな……」とは思っていたのだが、マジでやってくるとは思わなかった。
前作で漠然と残っていながらも目を背けざるを得なかった、彼女たちだけでこの先人類はどうなるのか、という不安を一撃で粉砕する激アツ展開である。

百合妊娠だ。

その後の、物語をたたむ展開の印象が薄くなるほどに、ここのインパクトが強すぎた。

しかしながら、2周目ラストの展開もまた良かった。
かなり駆け足の描写にはなっていたが、奏心たちの行動が、本作のテーマに沿っていて完璧だった。

前作はたんぽぽをモチーフとし、希望はどこへ行ってもつながれていくという話だった。
本作は、親から子へ、希望を託しつなげていくというテーマをしっかり描いてくれていた。
前作の京椛たちの生存報告、そして本作の奏心たちの行動が月の人類に大きな希望を与え、それを次につなぐための活力となっているのである。
前作ロッカーの「勝負は500年後だ!」がこれほど熱く効いてくる展開もないだろう。

良い驚きと、そして満足感を提供してくれた本作のシナリオは、素晴らしかった。

子どもを残すとき、アマルゴーサ・ウィルスが問題にならなかったのかはちょっとだけ気になっている。

釋尾 奏心 ときお かなこ

前作の京椛に似た立ち位置だろうか、と思っていたが、半分はそのとおり。いつでも明るく前向き。
「大丈夫&だいじょうぶ」をはじめとし、&でつないで言う口癖でみんなを4安心させてくれる。
とかく後ろ向きになりがちな玲頼に対して、強引に前を向かせようとするのではなく、玲頼のペースで抱えていていいよと言ってくれる包容力の塊。
かと思えば、ちゃんと必要な場面では玲頼を引っ張っていってくれる力強さも持っている。

血友病を抱えている。5
しかも、血液型がORH-であり、それが百年子と深く関係している。

沙織と春海からは なこ と呼ばれる。かわいい。

CV藤井彩加。アサルトリリィの相澤一葉の人。

金刺 玲頼 かなさし あきら

日本とデンマークのハーフ。
QOLの向上に一番真剣で、本作のサバイバル生活は彼女がいなければ成り立たなかったであろうほどに、心強い。
みんなのことを人一倍気にかけてくれる、奏心とは違った意味でのお母さん力を持っている。
その分、心配性だったり後ろ向きになってしまう部分も目立つのだが、そこは奏心がしっかりとフォローしてくれる。

CV河上明日香。

比企 沙織 ひき さおり

航空宇宙工学を学ぶ高専生。アレンジした着物を羽織っているが、着物については9章で明かされる。
遠慮がちで一歩引いているところがあるものの、実は玲頼、夏樹と並んで力仕事ができるタイプ。
距離の近い人が苦手で、序盤は百年子を避けてしまうところがあるが、みんなとのサバイバル生活で少しずつ近づいていく。
夏樹と並んで年長組ではあるのだが、本作では少し年の離れた百年子以外、あまり年齢差を感じない。

6人の中では頭脳担当な部分もあり、記憶力が凄まじく、終盤はその方面でも活躍する。

百年子とのお互いに支え合うような関係がとても良い。

CV藍月なくる。歌や音声作品で活躍しているらしい。

本多 百年子 ほんだ もとこ

みんなの妹百年子ちゃんですぞ!
作中で一番成長したのは彼女だろう。
最初こそ、みんなの妹、愛されキャラとして甘えたり、調子に乗ったりするシーンが目立つものの、本質的に彼女は誰とでも仲良くなりたいと強く思っている子である。
そのために自分のやり方をちゃんと見直せるし、最終的に仲良くなるまでの道のりをひとりで突っ走るのではなく、手を取り合って歩いてくれる優しい子。
そんな彼女に手を引かれ、沙織も徐々に心を開いていく。

気がついたら癒やしになっているタイプ。

9章の妹からのメッセージが涙腺ブレイカーだった。
前作の朱香同様、500年の断絶は13歳の少女には重すぎるんだってば……!

CV白石ゆきね。新人らしいが、百年子の元気さと優しさが混じった演技ははまり役。

双木 夏樹 なみき なつき

飄々として掴みどころのない、メンバーの中で最も度胸のある人。
春海にも「双木・マイペース・夏樹」とミドルネームをつけられるほどの、ウルトラマイペース。
度胸があるので、サバイバル生活の中で重要な、探索について先陣を切ることが多い。
春海曰く強運の持ち主。探索に出ては重要な発見をして、玲頼とは別の方向で生活環境の向上に貢献する。

彼女だけ、他のメンバーのことを名字で呼ぶ。
家族もそうだったらしいが、彼女は他人にそこまで執着しない性格であるらしい。
かと言って孤立するかというとそうでもなく、6人のメンバーの中にはよく馴染んでいる。
中でも、春海に対しては特別な感情を抱いている。
作中では無自覚系イケメン女子として春海を振り回すシーンが目立つ。時折、春海の申告で自覚させられて照れるところも。

立ち絵の角度や唇の尖らせ具合から、ニジウラセブンを思い出してしまい、序盤はそうとしか見えずに困った。6

CV大本なな子。

阿閉 春海 あずち はるみ

星と占いが好きだが、その付き合い方にはしっかりと割り切る落ち着いた子。
夏樹ほどではないが彼女もマイペース側の人間で、夏樹とは阿吽の呼吸と言うほどに波長が合っている。
ちょっと目つきが悪いというか、吊り目がち。

作中では夏樹の無自覚イケメンムーヴにたじろぐ乙女なシーンが目立つ。良い。

夏樹とは対照的に、人をよく観察する。

CVななひら。前作の菓子永里那の人。
ガッチリ妹キャラしてた前作とは違い、落ち着いた演技になっている。

百合要素

前作では友情よりも一歩深く踏み込んでくれたと書いたが、本作では更に深く踏み込んでくれた。
奏心と玲頼の百合妊娠もそうだが、それ以外のペアもプラネタリウムでは恋人繋ぎしており、それでいて前作同様にドロドロしない爽やかな心のつながりを感じられて良い。

システム

前作はシナリオ満点システム0点のぶっ飛んだ内容であったが、本作は探索パートを切り捨てた分、前作よりはだいぶマイルドになった。
それでも前作より悪化している部分もあり、総合的に見れば3歩進んで2歩下がった感じである。

オートモード切り替え

前作では、ワンボタンで切り替えられるオートモードと、設定から変更できるデフォルトオートモードの両方があり、プレイヤーとして直感的でなく混乱してしまった。
前者だけが残っていてくれればよかったのだが、本作ではなぜか後者だけが残ってしまい、オートモードを切り替えるためには設定を開かなくてはならなくなった。
これはプレイフィール的にややマイナスである。

常にセーブできるが、開始地点はチェックポイント

前作はセーブできるタイミングが限られていたので、そこから比べると凄まじい進化である。
しかし、セーブデータをロードした際に、セーブ時点の直近のチェックポイントから再開される。
チェックポイントの間隔はそこまで広くないので、実運用上問題はないのだが、この形式のゲームとしてはセーブ時点のメッセージから再開するシステムがスタンダードであるため、やや面食らった。

ロッカーは強制オートモード

これが本作において、一番の問題であった。
前作では素晴らしい内容であったロッカー、本作ではタイトル画面からのメニューにロッカーがあり、ゲーム開始時点からワクワクしていたものである。
しかし、蓋を開けてみれば、ロッカーの中にあった日記は強制的に文章送り、ページめくりが行われ、読むのが追いつかない場面がちらほら。
内容自体は良かった。前作ファン向けのサービスと思しきものであったり、最後まで残った人が希望を残してくれた旨も描かれていて、大変良かった。
だが、勝手にページがめくられてしまい、じっくり読ませてくれないのである。

このオートモード、設定にあるオートモードとは異なるものであり、OFFにできない。
結構な速さで表示されてはめくられるページを、素早く読まなければならない。
じっくり読んでこその内容であるだけに、これはめちゃくちゃもったいないと感じた。

コイン集めを必要としなくなったところは良かったのだが……。

やりこみ

トロフィーコンプリート

本作、2021/12/28時点でトロフィーをコンプリートした人がいない。
CGコンプリートのトロフィーが、取得率0.0%なのだ。

ペア選択のそれぞれのペアの回数で分岐するプラネタリウムスチル含めて、アルバムに35枚登録された状態で取得できていない。
複雑な条件のCGがあって誰も見つけられていないか、あるいは不具合によってトロフィーが取得できていないだけかは定かではない。

1周目の11章に隠されているとすると、1周目をクリアした時点でセーブデータが残っていなければ詰みである。
スキップモードの速度はそこそこあるとは言え、PS5で操作するとR2を押し続けるのが結構つらいので、筆者はそこまで確かめる気が起きなかった。

CGコンプリート(2022/01/25追記)

2022/01/24に配信されたパッチにより、トロフィーが取得できない不具合が修正された。
不具合修正前にアルバムに35枚登録された状態になっていれば、アルバムを開いた時点でトロフィーを取得できる。

サトミの謎

2周目11章クリア。2周目だからこそわかる要素もあるにはあるが、それにしたって4~7章は繰り返しやるにはキツいので、スキップを多様した。

トロフィータイトルがサトミの謎となっているが、特に謎が明かされるわけではない。
文脈からして、奏心と玲頼の子孫にあたる、とかだろうか。

ゆっくりしていったね!

全ペア選択する。
選択した瞬間にシステムデータにフラグが書き込まれる仕様らしく、択一式の場所でも選択後、ロードして別のペアを選択することで、周回せずに目的を達成できる。

結局、プラネタリウムCGのためにペア選択の回数を調整しなければならないため、序盤のペア選択直前のセーブデータを残しておいて、3つのペアそれぞれについて選択して進めるほうが効率が良いだろうか。

アイテムコンプリート

アイテムは入手ではなく発見時に登録される。
船でのみ入手可能なヒュパティアキット系だけ、注意深く集める必要がある。
ペア選択同様に一度入手した時点でシステムデータにフラグが書き込まれる仕様らしく、択一式のペア選択で入手可能かどうかがわかれる大根や野いちごは、同時に所持していなくても良い。

余談だが、病院で発見したはずのPCの説明文が図書館のものになっていたりする。

総評

前作同様に、システム面では粗が目立ったものの、やはりシナリオは百合としてもSFとしても非常に良かった。
ロッカーとトロフィーだけなんとかしてほしさはある。音声周りは、次回があるならそこまでにうまいこと管理する手法を導入してほしいところ。

前作よりはおすすめしやすいが、前作をプレイした上での面白さというものもあるので、単純に本作だけおすすめするべきかというと微妙なところ。
もちろん、前作を知らずにプレイしても楽しめる内容ではあると思うが、本作の後に前作をやろうとすると虚無システムが邪魔をするので、順序的には前作からを推奨したい。

公式サイトの小説は本作シナリオを読破した後に読むと味わい深いので、既プレイの方々はぜひ。


  1. Twitter
  2. アルバムへの登録枚数は確認できているだけで35枚だが、11章1周目と2周目で同じCGが2枚登録されている。更に、イベントCGコンプのトロフィーも取得できていないため、まだ何かあるかもしれない。
  3. 名前の由来は、ノアの方舟を作るために使用された木材。
  4. 特に玲頼を。
  5. 作中では病名こそ出されていないものの、症状の描写から明らかに血友病。
  6. そのうち慣れた。