【ラノベ感想】じんるいのみなさまへ -わたしたちの場所-

目次

  1. 概略
  2. どういう人向け?
  3. シナリオとして良いとこ
    1. 真のトゥルーエンドはここにある
    2. ゲーム版シナリオの裏側
    3. 春の訪れを、炉塞ぎと言うのならば
  4. 百合としてどうか
ゲーム版のシナリオがガッツリ刺さったので、小説版も読了。

結論から言えば、非常に満足度が高かった。

ここから先はネタバレを含むため、気になる方は本を先に読まれることを推奨する。

概略

ゲーム版「じんるいのみなさまへ」のメインシナリオを小説媒体用に軽く再構築し、邑楽幽々子の視点から描いた作品。
大枠ではゲーム内でのメインシナリオをなぞるような形だが、イベントの順序が多少前後したり、いい具合にダイジェストされている。
ゲーム内では描かれなかった幽々子視点の洞察や、キャラ同士の掛け合いが楽しいファン向け作品。

どういう人向け?

ゲームをDLCシナリオ込みでプレイして、シナリオやキャラクターが気に入った人向け。あるいは、DLCシナリオの締め方がスッキリしなかった人向け。
ゲームのほうはシステムがアレなので手を出すのを迷っているが、シナリオは気になっている、という人は場合によってはこちらで済ませても良いかもしれないが、描写はライトなので、先にゲームをやっておいたほうが内容は頭に入りやすいだろう。

シナリオとして良いとこ

真のトゥルーエンドはここにある

ゲーム版の評判では、DLCシナリオがトゥルーエンドであるかのように語られるケースが見受けられる。
ただ、筆者としてはゲーム版の締め方はDLC導入なしのほうがきれいであるように思えたし、DLCシナリオの終わり方は少々物足りない気持ちになるものだった。
締め方については不満がありつつも、DLCシナリオでなければ明かされない謎があるなど、どっちのシナリオも一長一短に感じていたのである。

ところが、本作のシナリオは、両者の良いとこ取りをしている。
大筋でDLCシナリオをなぞりながら、最後の締め方が1周目のそれと近いきれいな形になってくれている。
こういう終わり方ならなあ、と夢想していたものを、きちんと形にして届けてくれているのだ。これはとても嬉しい。

ゲーム版シナリオの裏側

ゲーム版のシナリオだけ見ると、幽々子の立ち位置が揺らぎがちであるように思える部分がある。
1周目こそ頭脳労働担当として活躍しながら、DLCシナリオでは朱香にそのお株を奪われるように見えてしまうからだ。

本作では、朱香を起こすDLCルートに則った内容でありながら、そのシナリオを幽々子の視点から描いている。
作中の1イベントで語られた刷り込みに関してうっすら気づいていたという点にフォーカスして語られる、違う角度から見たじんるいのみなさまへ、が楽しめるのだ。
細かな部分に差異はあれど、ゲーム版のシーンで幽々子が考えていたことが詳しく描かれており、表の主人公を京椛とするならば、裏の主人公を幽々子とする形で作られたストーリーと言うこともできるだろう。
幽々子がなぜ真っ先に夜空の異常に気がついたか、も描かれている。ゲーム版でのプラネタリウムで幽々子と勇魚の二人がCGに選ばれたことともつながっていそうである。

幽々子とムツミの通信など、ゲーム版では描かれなかったシーンもいくつか書かれていて、新鮮な気持ちで読めた。

春の訪れを、炉塞ぎと言うのならば

炉塞ぎと雪解けの対応についてはゲーム版の記事でも述べた通りだが、炉にするフタを記憶のフタと絡めているという視点については本作第一章結びの一文を読んだ時に初めて思い至った。
本作では塞がれた冬の思い出について、ただ一人記憶のフタがズレていた幽々子が見た夢という形で描かれている。
ゲーム版では描かれていなかった裏側で、DLC9章の幽々子が絞り出した「ごめん、なさい」に至るまでのプロセスがより詳しくわかるようになっている。

彼女たちが生きるために「ともだち」で塞いだ思い出を、幽々子は誰より大きな形で引きずってしまっていたのだ。
ゲーム版が朱香と京椛の雪解けにフォーカスした内容であったとするなら、こちらは幽々子自身の雪解けの話である。
誰より臆病で繊細な幽々子が、雲のまどろみのようにまとわりつく不確かな過去の夢に整理をつけて、新しい「わたしたちの夢」を見る。

過去にとらわれず、前を向いて今を生きていくという じんるいのみなさまへ のテーマはここでも貫かれている。

百合としてどうか

えりゆゆは良いぞ。

ゲーム版8章の絡みはダイジェストになっていてあっさりだが、そのほかのシーンで特にこの二人の絡みが増えている。
目覚めのシーンからしても永里那がやってきてくれるし、それからも事あるごとに幽々子について回ってくれている。
幽々子を罪の意識から引っ張り上げてくれるのは、最後には永里那の役目になっている。
いや、耳打ち追加と朱香に嫉妬する永里那のシーンはずるい。しかもその後、呼び方が一度だけ「えりな」になるのも最高だ。

ゲームでもかなり好きなペアだっただけに、この補完はめちゃくちゃ嬉しい。

他のペアについては描写が少なめになっているが、朱香と京椛のすれ違いの切なさにも触れられている。
「ともだちと、仲直りができないまま……わたしたち、「ともだち」に、なっちゃうのかな……」はかなり心に来る。
普通に仲良くしてるシーンもちょいちょいあって、これもまた嬉しい要素だった。