【ゲーム感想】じんるいのみなさまへ
目次
前置き
筆者は小説版じんるいのみなさまへは未読である。これから読む。
このゲームはシナリオに全振りした結果システムに全くリソースを割けなかった作品なので、シナリオについてのネタバレが気になる場合は先にシナリオを体験してからこの記事を読んでほしい。
動画で補完しても構わないが、DLC含め2周と、ロッカー60個の内容を見た上でこの先の記事をお読みいただくことを推奨したい。
筆者が遊んだのはPS4版であるため、PS4版について記述する。1
グラフィックス
立ち絵はとっても良い。
ふんわりと柔らかい感じの絵柄は、本作の雰囲気にマッチしている。
目パチ口パクが実装されている。
1枚絵はところどころ特徴的な作画が見受けられるものの、これも基本的に可愛い。
1枚絵は基本18枚、DLCでプラス7枚。
シャワー室のえりゆゆ、キッチンのかずいさ、DLCでは背中合わせのきょうしゅかが百合として素晴らしい。
裸足の12歳もめちゃくちゃかわいい。
3DCGはさほどきれいではないものの、モデルは悪いというほどでもない。
秋葉原駅周辺、電気街の3Dマップはなかなかの再現度で、現地を多少知っていると楽しめる。
知らなくても、GoogleMapの航空写真などと見比べて楽しむことができる。
時間や天候による変化がなかったのは悔やまれる。夕刻の朽ちた秋葉原など、とってもエモい風景になっただろうに。
OPムービーはギャルゲエロゲにありがちな、よく言えば無難なつくりをしている。
立ち絵の表情がふわぁっと笑顔に変わっていく演出は好きだが、繰り返されるとちょっと飽きる。
サウンド
BGMはどれも和やかだったり、穏やかな曲調が多く、癒やされる。
永里那のCVななひらの歌う PRECIOUS DAYS から、声も伴奏も優しい。
音楽鑑賞モードではインスト版も聞くことができて、良い。
昨年12月からFull版が有料配信されている。本作のシナリオを見た後だと、Full版の歌詞も非常にエモいので、プレイ済みの方は是非。
虚無感あふれる探索パートも、 風が吹いたら のおかげで多少は心が癒された。
終盤のしんみりイベントで聞く 世界の終わりは春しおん もピアノが心地よい。
BGM自体は良いのだが、BGMの再生終了処理を書き忘れた部分があるのか、ごく一部でBGMが重なって再生されるパートがあった。
おやすみジングルを施設のアラート音に使ったりしていて、その使い方にはちょっと違和感がある。
ボイスについては、声優の演技自体は悪くないのだが、時折文脈と全くずれたイントネーションになってしまうセリフがある。
ボイス抜けもあり、文脈による演技指導やシステム面に邪魔されて良さが最大限発揮できていない印象がある。
シナリオ/キャラクター
本作の魅力はここに全て詰まっている。
まず、秋葉原のホテルでカプセル型のベッドから主人公たちが目覚める。
秋葉原に観光に訪れた友人のグループという体で、荒れ果てた街へ繰り出すのである。
開幕から、プレイヤーは混乱する。
なぜなら、十代のうら若き乙女たちが、窓割れたり緑に覆われたりした無人の街を前にして、「アキバならこんなもんでしょ」というテンションで観光を始めるからである。
カプセル型のベッドから目覚めた時点で、これはコールドスリープだな、という予想は働く。
のだが、その後の彼女たちのテンションや周囲の状況から、SF慣れしていない筆者は先の展開がまるで予想できなくなってしまった。
この手のポストアポカリプスモノは、だいたい少数のグループの中で諍いがあったり、険悪な雰囲気になって、その中での人間ドラマを描くケースが多い。
本作の評判として、鬱展開は強くなく、基本的にほのぼの路線であるという内容があった。その評判を前もって知っていたので、余計に混乱したのである。
彼女たちは、人いないね、くらいの軽いテンションで、全く暗い雰囲気になることなく、明るくたくましく生きていく。
友人たちの中で自分の立ち位置に悩んだり、衝撃の事実にちょっと面食らったり、時には泣いてしまうこともあるけど、それでもいつまでも後ろを向いて立ち止まる彼女たちではない。
前を向いて笑顔で進んでいく。強く美しく、そして明るいサバイバル生活を送っていくのだ。
1周目ラスト、彼女たち自身にとっての宝物である今のサバイバル生活をもう少し続けよう、ということで旅行に行くくだりがとても良い。
タイトルを回収したシーンでは凄まじい満足感があった。
キャラクターや各シナリオについて、詳しく述べていく。
榛東京椛
いつでも明るく、ふわふわ笑っている。
お茶目さも十分で、天然のテンションでよく自爆して「えーん」と鳴く。これがまたかわいい。
作中通して、目立った活躍があったわけではないのだが、終わってみるとやはり彼女の存在は大きいと感じる。
彼女がいるだけで、自然と場の雰囲気が明るくなる。
CV佐東茉奈。新人のようだが、キャラクターの雰囲気にとっても合っている。この声あっての京椛ちゃん。
菓子永里那
ダウナー系ゲーマー女子。
DLC抜きでは最年少の13歳だが、その落ち着きっぷりというか達観っぷりは最年長の勇魚よりも貫禄がある。
京椛からもヘンに度胸があると評されている通り、滅多なことでは動じない、何があってものらりくらりと生きていけるような少女。
その落ち着きから、京椛と並んでチームの心理的な支えになっていたのだろう。
幽々子といい感じになるところが大変良い。
CVななひら。ふぉれすとぴれおの同人ボーカル曲で聞いた覚えがある。
少弐勇魚
最年長17歳。メンバーの中では最も暗くなりやすいが、和海を始め周りに支えられてなんとかなる。
一番周りのことを見て、よく心配している。暴走しがちなメンバーのストッパーとしての役割も。
そして、何よりサバイバル生活で最も大切な食に関する能力、料理スキルを持っている。
メンバーの中で最も面倒見の良いお母さん的な立ち位置で、それに悩みつつも、和海の影響もあって受け入れる彼女の変化が大変良い。
料理後の寸劇ではちょっとテンションの壊れた彼女を見ることができる。これもまた楽しい。
CV椿ゆきの。
小松和海
能天気&パワー担当。アウトドア趣味があり、力仕事含め、ワイルドなことは彼女に任せておけば良い。
やる気になったらとことん突っ走るタイプでありながら、勇魚の影響で周囲をよく観察するようになる変化が、勇魚自身の変化との対比になっている。
京椛と同じく明るいが、天然な京椛や狙ってボケを入れてくる永里那に対して、ツッコミ役に回ることが多い。
8章の勇魚へのプロポーズは必見。
CV星守紗凪。
邑楽幽々子
頭脳&技術担当。冷静で、ちょっと陸軍っぽい喋り方をするところが個性的。
ボサボサヘアでちょっとだらしなさそうなところとか、14歳でありながら和海に次いで背が高いところもポイント。
フランス人とのクォーターだが、その設定が活かされる部分はそこまでない。2
灰色のつぶらなひとみがチャーミング。小さい口と合わせ、比較的高身長でありながらどこか小動物を思わせる雰囲気がある。
1周目ではその知識と応用力でチームを支え、DLC込み2周目では刷り込みに予め気づいていたことが明らかになる。
幽々子の気持ちを知ってか知らずかでからかってくる永里那に振り回されるところが良い。
ふたりとも理屈寄りで、いい感じに噛み合っている。
8章の「愛情なら、少しぐらい身勝手でも許してくれるのだろう?」が最高。
DLC2周目で刷り込みに気づいていたことを告白するシーンの絞り出すような「ごめん、なさい」がすごい印象に残っている。
小説版じんるいのみなさまへ は彼女の視点で描かれるらしい。
CV中澤ミナ。
朱香Сухая
DLC追加キャラ。2周目の2章から加入が可能で、彼女を加えてシナリオを進めるとイベントの内容が微妙に変化したり、6章以降の展開が大幅に変わってくる。
メンバーの中では最年少の12歳だが、飛び級で大学に通っていた天才児。
航空宇宙工学専攻だが、大学に通うほどの頭脳の持ち主はメンバーの中では彼女を置いて他にいないので、加入後の頭脳労働は幽々子ではなく彼女がメインになっていく。
ロシア人とのハーフであり、「きょうか」が発音しにくいため「きいか」と呼んでいる。
кёка(キヨーカ)とするよりはкика(キイカ)としたくなるのだろうか。
8章の万年筆のくだりは胸が締め付けられる切なさ。
500年という時の隔たりは、12歳の少女にはあまりにも遠く、重い。
公式サイトでは名字の最後яが大文字になってしまっているが、ゲーム内ではちゃんと小文字。
CV八木侑紀。
DLCシナリオ
500円の有料DLCで2周目から朱香を加入させ、物語の別展開を見ることができる。
1周目で明かされなかった朱香周りの設定や、メンバーが記憶をどうして失っていたか、なぜ最初から彼女たちが友人として振る舞えていたかが明かされる。
また、宇宙へ向かった人類に関する設定が1周目の状態と違うような印象を受ける。
1周目では地球に先遣隊を送ると言ってきているのに対し、2周目では宇宙から地球に戻るための力を失ってしまっている。
正直なところ、1周目のきれいな終わり方に対して、DLCシナリオの終わり方自体はスッキリしなかった。
謎が明かされたという点ではスッキリするのだが、シナリオ構成としての終わり方は1周目のほうが好き。
1周目ほどタイトルを明示的に回収していないため、そこもやや不満が残る。
重要な謎が明かされるのでこのシナリオは本作を楽しむためであればほとんど購入がマストに近い。
そういった意味では批判もあるようだ。筆者は最初から何も考えずにDLCまで購入してしまっていたので、特に気にならなかったが、DLCなしで完結しないシナリオと言われると確かにもやもやする。
DLCシナリオ側に後述の会話パートのバグが多かったことから、シナリオの締め方も含めて納期の悪魔に殺されてしまった結果なのだろう。切ない。
誤解のないように言っておくと、シナリオは締め方が多少スッキリしないだけであって、朱香が関わる追加イベント自体はとても良い。
1周目で他がカップルになってしまった結果一人取り残された京椛ちゃんが救われる展開であるというのもまた良い。
雪解けの頃、キミに謝りたい
京椛と朱香の関係を暗示する1枚CG。
CGタイトルは1章の 炉塞ぎの頃、わたしたちは…… に対応しているのだろう。
結局、眠りにつく前に京椛と朱香が小さな喧嘩をしてしまったであろうことだけしかわからなかったが、それでも前を向いて、何度でも友達になろうと言い合う二人の関係はとても良い。
500年の冷凍睡眠
シナリオ終盤、8章のイベントでようやく、彼女たちの置かれた状況についてネタバラシされる。
開幕から予想がついていたとおり、6人はある事情によってコールドスリープについており、500年眠っていたのだ。
その事情とは、500年前に地上で猛威を振るった致死性のウィルス。
人類は自らの起源を知るため、宇宙から岩石を持ち帰って研究するたんぽぽプログラム3を進めていた。
持ち帰った岩石をデスバレーに廃棄したところ、そこからウィルスが発生、アマルゴーサ川にとけて地下へ流れ込み、そこでコウモリを媒介にして爆発的に地上に広まった。
三年であらゆる動物に対して猛威を振るい、地上の生態系を破壊。人類の30%(およそ25億人)が死滅する大惨事となった。
ワクチンの開発に成功しながらも、ウィルスの根絶までは至らず、人類はやむを得ず、ウィルスから物理的に距離を取る選択をとった。
人類は宇宙へ逃れることとなったのだが、ウィルスの罹患者をそのまま宇宙へ連れて行くわけにはいかなかった。
そこで、彼女たちを治療するために、冷凍睡眠させたのである。
患者を化学的に昏睡状態にしておき、その間にウィルスの寿命を待つ。4
こうして完治した患者の体内からは、ウィルスに対して有効な抗体が採取できるものとも期待されていた。
かくして、人類の希望として眠りについた彼女たちは設定どおり500年後に、人類のいない秋葉原で目覚めたのだ。
星間物質検証プロジェクト「たんぽぽプログラム」
本作は過去にとらわれず、前を向いて今を楽しく生きていこうというテーマのもとで描かれている。
この計画が重大なパンデミックを引き起こすトリガーとなってしまったのは、人類が過去にこだわった結果……と言えるかもしれない。
作中では京椛の祖母がたんぽぽの種に関する話をしてくれるシーンがある。
どれだけ遠くへ飛んで芽を出し、花を咲かせても親の形はしっかり受け継いでいく。命はそうして続いていく。
大事なものは無理に思い出さずとも自分の中にちゃんと残っているから、昔のことに囚われないで、どこへ行っても元気でやっていくんだよ。と。
長い眠りでいろいろなことを忘れた彼女たちも、人格のコアとなる大事な部分はそのまま残っている。
500年という途方も無い時を超えて、ひどく遠くへやってきた彼女たちは、ひたすら前向きに進んでいく。
そういう希望に満ちたテーマが貫かれるところが、本作の大きな魅力の一つと言えよう。
ロッカーの日記
秋葉原のコインロッカーに、500年前の人々が残した日記が入っている。
コインロッカーは1箇所開けるごとに100円硬貨を1つ消費するが、開けた瞬間にグローバルなセーブデータに記録されるため、空けてからタイトルに戻る、を繰り返せば最悪100円硬貨1枚でも全てのロッカーを開けられる。
100円硬貨を集める作業はシステム上非常に面倒なのだが、このロッカーの日記は非常に面白いため、本編をクリアしたのであればこちらも是非開けてほしい。
ロッカーを空けて出てくる500年前の人々の日記が、とっても面白い。
ボイスもなくテキストだけで、さほどボリュームが多いわけでもないのだが、一つ一つがかなり良い。
人類全員で宇宙へ避難する、というSFが最もよく描かれている部分でもある。
全員一度に行くわけにはいかないので、順次宇宙へ向かうことになるのだが、そこで生じる人々の感情とか、関係性を描いていて良い。
京椛たちとは全く関係のないモブ同士の百合が描かれていたり、故郷の星を捨てて逃げることへの無念を綴っていたり、アマルゴーサウィルスの犠牲になった人々を思う記録があったり、食に関する仕事の需要が高まるだとか、宇宙船に客室乗務員が取られたので引退していた人たちが呼び戻されるといった社会の変化まで描かれていたりする。
どれも、迫りくる強制的な変化に対して500年前の人々が抱いた感情が詰め込まれていて、つい笑ってしまったり、涙してしまうような内容のものもある。
そして、作中で不思議に思いながらもお世話になった大量のシュレッダーダストの秘密までも明らかになる。
朱香を加入させることで41~60番のロッカーが追加され、こちらも非常にエモい内容が揃っていた。
特に、「明日の貴方の為に」「リケジョの星の失敗」は本編の謎を説明しながらも、500年前からの想いが受け継がれたことを示していて最高だし、「内閣総理大臣」の中で言われていた「考えるよりも信じてしまう事から人類が脱却する為に」や「じんるいのいがく」に綴られた「勝負は500年後だ!」も熱い。
全ての日記に共通しているのが、500年前の人々の想いがはるかな時を越えてなお、残されているということ。
どれだけ遠くへ来ても、大事なものはしっかり残っている。これも本作におけるたんぽぽであり、人類が残した希望だったのだ。
肝心の百合要素
筆者は最初、友情で止めるくらいの軽いものだろうと思っていたが、本作はそれよりも一歩深く踏み込んでくれたように思う。
見ようによっては恋愛だが、ドロドロしすぎず、まだ爽やかな段階の心のつながりを確認できる。
みんなで危機を乗り越えた7章以降から特に、互いの信頼が強くなっている描写があり、筆者の好みに直撃した。
和海と勇魚の年長組としての組み合わせも良いし、幽々子と永里那の、永里那が引っ張っていく二人も良い。
DLCは必須だが、京椛と朱香の組み合わせも大変良い。京椛から朱香を呼ぶときの声がすごく優しくて、好き。
惹かれ合う過程を丁寧に描きつつ、家族のような信頼を描いてくれる百合作品はとても貴重で、筆者にとっては嬉しい要素だった。
システム
ここまで、シナリオ面の良いところをたくさんあげてきた。
だが、シナリオ面はほとんど満点と言っても良いような作品であったのに対し、システム面は0点とさえ言い切れてしまう残念な部分が目立った。
以下、基本的に良い内容が書けないことをご留意いただきたい。
探索パートは虚無
本作は、荒廃した秋葉原の街を探索し、サバイバルに必要な素材や食材を探す探索パートと、女の子たちが繰り広げる基本ゆるふわな会話パートに分かれる。
探索パートに関して、これはそもそもこのゲームに必要だったのかすら疑問に思えるほどの虚無であったため、その虚無さを書き連ねておく。
なお、筆者がプレイしたのは1.01アップデート後のため、アップデート前の情報には触れない。
移動時間が虚無
マップの広さに対して移動速度が極端に遅い。
秋葉原駅周辺のマップはさほど広くないのだが、それにしても京椛ちゃんもうちょっと早く走ってほしい。
せめてこの2~3倍の速度があれば、ストレスもだいぶ違っただろうに、と思われる。
シナリオを進めるだけなら探索がほとんど不要であるのが唯一の救いか。
それにしても、料理のレシピを集めたり、材料を集めたりのために秋葉原を歩き回る際のストレスが尋常ではない。
歩くと走るを分けて、走る際にR1を押しっぱなしにさせる設計も謎。歩いても得があるわけではないので、デフォルトから走る一択でも良かったのでは。
また、移動速度が極端に遅く、自力で目的地を探そうとすると余計な時間を食いすぎる恐れがある。
素直に攻略サイトに頼っていこう。
料理の効果が虚無
1日に1度、料理をして探索が有利になる効果が得られるシステム……のはずだったのだろう。
フタを開けてみれば、料理の効果はおおよそ虚無である。
まず、探索ポイントにおける収穫量を増加させる効果がある。
ただし、収穫量が1.1倍になったところで、10のオーダーで収穫できる箇所などない5ため、収穫量の増加が目に見えず、小数点以下で切り捨てられているのではないかとも思えてしまう。
隠し料理になってようやく1.2倍や1.3倍の倍率が出てくるものの、それにしたってせいぜい1個増えるかどうかくらいのもので、この効果の料理を食べる意味ははっきり言ってない。
では、探索にかかる時間が短くなる効果はどうだろうか。
本作の探索パートは、探索ポイントごとに消費する時間が決まっており、合計で12時間消費すると強制的にホテルに戻され、あとは料理などをして1日を終える必要がある。
ここで、移動速度が極めて遅いことを思い出してほしい。
探索に出て、ホテルに戻ってくるために歩くより、12時間消費しきって強制的にホテルに戻されたほうがリアル時間の効率が良いのだ。
そして、探索にかかる時間を減らすほど、12時間消費しきるまでに必要な移動時間が増える。
つまり、この効果は虚無を通り越して非効率ですらある。
何も料理せずに1日を終えた場合、彼女たちは空腹になり、探索にかかる時間が倍になる。
カップ麺や煎りどんぐりといった軽食で済ませた場合も、探索にかかる時間は増える。
つまり、効率よく探索パートを繰り返すには、彼女たちの食生活を犠牲にする必要があるのだ。
ゲーム的な不利は一切ないものの、フレーバー的にそういったプレイングをしたくないプレイヤーは多いだろうに……。
なお、料理レシピは同人ショップの探索で手に入れる他なく、確率入手の上、ひたすら同じものがダブったりするので、全種類集めるのは現実的ではない。
畑仕事が虚無
畑に種を植えると、3日で収穫できるようになる。
貴重な食料を得る手段ではあるのだが、3日はゲームとして時間がかかりすぎである。6
動物をとらえるために罠を仕掛けることもできるのだが、仕掛けた罠は翌日見ると必ず獲物がかかっており、肉を入手できる。
しかし、野菜は3日に1回。罠の材料でもあるチマメは不足しがちだし、何より、畑では確率で取得できる調味料の存在が大きい。
料理に欠かせない調味料は、畑で特定の種を植えて収穫する際に確率で入手できる。
普通にゲームを進めていたら、1周シナリオを進める間に畑で作物を収穫するのは2~3回程度である。
意識して収穫しないと、調味料を入手しないままクリアすることのほうが多いだろう。
最も効率のよい収穫は、種を植えてから3日寝続けることであるのも虚無感が強い。
落とした仕様の名残?
ガシャポンなど、思わせぶりなイベントの区切り方をしていてそのまま投げっぱなしなところがある。
おそらく、納期の都合で仕様を落とした名残がそのまま残っていたのだろう。
システム面を練るだけの十分な時間がなかったことを思わせ、ちょっと悲しい気持ちになる。
目的地がないバグ
探索パートで目的地が出現せず、そのままでは進行不能なバグがある。
ただし、これはゲーム内で翌日になれば(つまり、ホテルで寝れば)解消するため、前のセーブデータからやり直す必要はない。
会話パートのバグ
シナリオはとても良いのだが、会話パートにバグがある。
見たはずのCGがギャラリーに登録されず、トロフィーが獲得できなかったり、セリフとボイスの内容が異なったり、そもそもセリフに対して本来存在するはずのボイスが設定されていない部分があったりする。
そこまで頻発するわけではないのだが、シナリオが重要な作品であるだけに会話パートのバグはもったいない。
デフォルトオートモードの存在も直感的でなく、手でオートモードを解除しようとしても止まらずに焦ったプレイヤーは多いのではないだろうか。7
ゲーム開始後、設定からオートモードを解除しておくことを推奨したい。
CG未登録バグについて
筆者は運良く1周目の本編では遭遇せず、トロコンに影響はなかったのだが、場合によっては1周目でも発生する?
2周目9章の「わたしたち、たのしいね」「カンバセーションのフラフ達」でこのバグに遭遇した。
もう一度9章開幕のイベントを見て、その後の探索イベントでトイレを調べることで解決した8のだが、この挙動から推測するに、ギャラリーへの登録判定は、CG表示に近いイベントの既読フラグによって行われているのではないかと思う。
もしこのバグに遭遇してしまったら、焦らずにCG表示に近いイベントを探すしかない。
セーブは1日1回
セーブできるタイミングは、章の移り変わりと、1日の終わりのみである。
デフォルトではオートセーブが有効になっているが、セーブのタイミングがわかりにくいので、これも設定項目から解除しておいたほうが良い。
せめて、オートセーブ時にその旨を小さく表示してくれていたら良いのだが。
セーブ欄も4つしかなく、CG未登録バグに遭遇したときに戻ってやり直す手間が大きい。
強くてニューゲームはない
2周目への引き継ぎ要素はない。
食材も素材も、料理レシピも引き継がれない。
特に食材や料理は集めるための労力が大きいので、引き継がせてくれても良かったのに。
やりこみ
トロフィーコンプリート
探索含めやり込む必要があるものがいくつかあるものの、トロコン難易度自体は高くない。
鉄鍋のイサナ
料理を一定種類以上作る。
まぁまぁの料理を作った。とあるように、全種類作らなくても良い。
野菜とレシピの確保が面倒なので、そこだけ探索のときに気をつけておきたい。
釣りごろ釣られごろ
料理のために釣りをしていれば自然と獲得できるだろう。
Dearハンター
動物は罠を仕掛ける場所によって種類が違う。
鶏系、カエル系、うさぎ系、大型動物系の4パターンがあるものの、罠自体は何を仕掛けても変わらない。
最初にチマメを確保してから、肉を獲得、その後はワイヤーと肉とでノルマンディーを作って使うと良いか。
トロフィータイトルがDeer(鹿)ではなくDearとなっているのは、 じんるいのみなさまへ だからだろうか。
のんびりびより
徒歩で30分移動する必要がある。
Lスティックを倒して放置でも良い気はする。
走っても遅いのに、徒歩で移動させるとは何事だ。
新幹線のゲーム
これだけ時期限定。7章のある時点限定で見ることのできるイベントで獲得できる。
詳細は攻略サイトを参照してほしい。
CGコンプ
前述のバグに遭遇しなければ特に問題ないが、DLC導入後の朱香に関わるCGが1枚だけ特殊。
3章の終わりで朱香を起こす選択肢が自然に出てくるまでに彼女を起こしてしまうと、裸足の12歳CGを見ることができない。
1周目を終えたプレイヤーとしては一刻も早く朱香に会いたい心理があるので、これはちょっとした罠になる。
料理コンプ
料理はレシピを同人ショップからランダムで引き当てる必要があり、全種類コンプは非常にしんどい。
一応、レシピごとに初料理時にボイスなしの寸劇を見ることはできるのだが、筆者も隠しレシピまで揃えきることはできなかった。
ロッカーコンプ
100円硬貨を使ってロッカーを開け、日記を読む。
本作の大きな魅力の一つなので、クリアしたらぜひ全部読んでほしい。
開けた瞬間におまけから閲覧できるフラグが立つので、100円硬貨をあるだけ使って開けたらセーブせずタイトルへ戻る、を繰り返すと良い。
総評
システム面は散々だったが、シナリオはとても良かった。
百合としても大変よく楽しめたし、SFとしてのシナリオも良かった。
ロッカーのテキストも読んでいてとても満たされた。
粗雑なシステムに耐えうる忍耐を持っている百合好きには、是非この作品を体験してほしいと思う。
システム面のせいで良作とは言い切れないが、シナリオが筆者の好みに合っていたため、かなり楽しめた。
さあ、次は小説版を読むぞ!
- Switch版もトロフィーがないくらいで、他は共通だろうか。
- 探索中の会話で、海藻が消化しにくい体質であると言うところくらいか。
- 元ネタはたんぽぽ計画だろうか。計画の趣旨も一致している。
- 狂犬病の治療に用いられたミルウォーキー・プロトコルを発展させたものである。
- 多くても一度に5個程度しか取れない。
- あくまでゲームとして見たときの話。リアルに3日で巨大な大根が出来上がってしまう理由は、DLCのロッカーで明かされる。
- なんと、手動オートモードと独立した設定項目で、ログを開いたりしなければワンボタンで止められない。
- 1回目のときはトイレを調べずにイベント進行して進んでしまったため、未読イベントだった。