【百合作品感想】飼い猫になって百合カップルのイチャラブ生活を見守るお話
前置き
作品に関するネタバレを含むため、閲覧の際には要注意
あらすじ
社畜、小野寺たま子は残業帰りにスマホで百合漫画読みながら歩いていたら、海に落ちて死んだ。享年二十五歳であった
しかし百合厨としての執念が成仏することを拒み、彼女はなんと仔猫に魂を乗り移らせて生きながらえる
過酷なネコの世界でのサバイバルに、人間社会の脆弱な歯車に過ぎなかったたま子が耐えられるはずもなく、空腹の上に冷たい雨に体温を奪われ、ネコとしての生もあっさり終わってしまうかと覚悟したたま子だったが……
最後の力で自宅マンションの前までたどり着いていたのが功を奏し、隣に住んでいた小学五年生の深優に拾われ、そのまま飼い猫になる
飼い猫として生活していたある日、深優の家に遊びに来た燐香とひな乃が深優をある刺激的な行為に誘う場面を目撃してしまい……
作品傾向
指標 | レベル |
---|---|
要啓蒙度 | ☆☆☆☆☆ |
糖度 | ★★★☆☆ |
要啓蒙度とは、この作品に対する百合の見出しやすさを主観的に表したもの
糖度とは、この作品におけるいちゃいちゃ度を主観的に表したもの
前作のPost not found: follage-plant-is-watching-yuri 観葉植物と同様に、タイトルからわかるとおりの百合作品
カップルというにはやや不思議な三角関係で、イチャラブというには甘酸っぱいシーンが多いのも前作通りだが、前作より気持ち甘めに感じるため、糖度は3
要啓蒙度
レベル | 基準 |
---|---|
☆☆☆☆☆ | 明らかに百合。公式が(ガチな)百合と明言している。作品タイトルやパッケージのみで百合とわかる |
★☆☆☆☆ | 明言はされないがほぼ百合。ガチなキャラがいる、など。作品を読み始めた直後に百合とわかる |
★★☆☆☆ | 容易に百合を見出だせるシーンが目立つ。作品を見て十中八九百合と理解できる |
★★★☆☆ | 百合を見出だせるシーンが少ないながらもある。作品を注意深く見れば百合と理解できる |
★★★★☆ | 百合を見出すには訓練が必要。強引に百合要素を見出だせなくもない |
★★★★★ | 訓練しても百合を見出すのは困難。百合ではない |
糖度
レベル | 基準 |
---|---|
☆☆☆☆☆ | ビター |
★☆☆☆☆ | 特別に甘さはない |
★★☆☆☆ | やや甘め |
★★★☆☆ | 甘い |
★★★★☆ | とても甘い |
★★★★★ | 砂を吐く甘さ |
総評
ほぼ前作と同様のパターンで、主人公?が開幕で死んで転生する
転生先が植物であった前作と異なり、今作は自分の意思である程度動ける動物である、という点で前作とは少し違った雰囲気が楽しめる
前作は読んでいなくても全く問題ないが、世界観は共通で、あの喫茶店が登場する
死んだたま子の身内関係も両親のことがちらっと触れられるだけで、主要人物の姉だった前作ほど暗い気持ちにはならないよう、うまく調整されている
そして、華以上にたま子は死後のほうが幸せそうである
生前は理不尽な上司に残業にで疲弊しきっており、百合作品で心の傷を癒すことでやっと生き延びていたようなものだったようなので、かわいいというだけで大事にされるお猫さまの生活が幸福すぎるのだ。現代社会の闇と言えよう
百合パートは、燐香とひな乃が深優を「ちゅー友」に誘うところからスタートする
一人は背伸びして、一人はドキドキすることを求めて、そしてもう一人は楽しいことへの好奇心から
幼い感情からスタートした秘密の関係は、中学・高校と多感な時期に色々な経験をして、変わったり変わらなかったりする
ひな乃は前作の泉美同様、ほか二人の恋に恋しながらも、その二人に惹かれているタイプ
おそらく作者の好みはこういう子が報われる展開なのだな、という感じ
燐香は背伸びしたり友達の背中を追いかけたり、不器用な未熟さを抱えながら青春時代を必死に走り続ける子
不器用な二人をしっかりつなぎとめるのが深優
とってもバランスの良い3人パーティである
死んで転生して、小学~高校、社会人までの三人組を見守る話のパターンとしては前作と似たような感じなのだが、読後感は大きく異なる
戻らない時間に対するノスタルジーを強く感じた前作と違い、今作は積み重ねた時間と振り絞った勇気の結果としての幸福のほうが強い
泉美のような古い価値観による葛藤がほぼ描かれなかったのも安心して読めるポイントだった
むしろ、古臭い価値観で体育会系のノリを押し付けてきた先輩をひな乃が百合堕ちさせてしまう痛快なシーンすらある
ひな乃、恐ろしい子……ッ!
前作と違って主人公が自らの意思で動けるため、ネコとしてのたま子が重要な役割を果たす場面もある
特に最後の雨の中に向かって走り出すシーンに心を持っていかれた
百合とは直接的に関係しない描写だが、弱い存在がそれでも、と覚悟を決めて挑むというのは大変に刺さる
冷たい海に落ちて死に、雨で冷えて死にかけ、その雨への恐怖をまた自覚するシーンもあった後での、「私じゃダメなんだ」がもうしんどい
桜Trickかよというほどひたすら唇を重ねる三人と、それを見守りつつも いざというところで ちゃんとかっこよく決めてくれるお猫さまとで、筆者としては前作よりこちらのほうが好きかもしれない
やはり開幕で亡くなったのが隣に住んでいるだけの他人であったため、暗いビター感を引きずらずに済んだのが大きいだろうか