【アニメ感想】リズと青い鳥

目次

  1. 前書き
  2. 概要
  3. ヘヴィ青春ビーム。おじさんは死ぬ
  4. じゃあ面白くなかったワケ?

前書き

筆者は 響け!ユーフォニアム アニメも原作もある理由から未履修。
それらのネタバレはないが、リズと青い鳥に関してはネタバレを含むので未視聴の方はご注意を。

概要

作中作童話「リズと青い鳥」を題材にした楽曲を演奏することになった吹奏楽部のフルート担当のぞみと、オーボエ担当みぞれの話。
二人の互いへの気持ちを、リズと青い鳥の関係に見立てて進む瑞々しくも眩しい青春ストーリー。

ヘヴィ青春ビーム。おじさんは死ぬ

重い。百合の匂いの香を焚きながら振る舞われるフルコース料理。

のぞみぞの互いへの気持ちももちろん重いのだけど、演出から舞台から、何から何までおじさんにとっては非常に重い。

まず、登場人物はJKであり、彼女たちの時間はとてつもなく有限であって貴重なものであるという認識があるおじさんにとって、この作品の時間の使い方が非常に重い。
キレイな背景を映しながら、その場を悠然と歩く彼女たちのなんでもない一瞬を、じっとりゆったり描くのだ。
なにか言葉を発するでもなく、ただ足元だけを映して、気持ちが揺らいだときの癖を強調してみたり、カツカツと心地よい足音を鳴らしながらももどかしい距離感の二人が、ただ縦に並んで歩いていたり。

とにかく、時間の使い方が贅沢。
無駄なくギチっと詰められた30分アニメではなく、90分をジリジリと焦らしながら進んでいく。
こんな贅沢な間のとり方をしているのに、体感時間が全く短くならないどころか長く感じる。退屈さとは違う重石が胃の中にずっしり流し込まれる感じだ。
健康診断で飲まされるバリウムの重さに近い。
贅沢な使い方をされる時間のすべてのカットに感情がしっかり染み込んでいて、それを読み取るだけでも相当に精神力を消耗する。

吹奏楽部の活動風景も筆者にとってはザクザク刺さった。
高校時代、十二支が一周りするよりも前に管弦楽部で見たあの光景がそのまま画面の中に広がっていたのだ。
音楽室にぎっしりと並び立つ譜面台、スコアを置いてペラペラめくる音、ちょっとゆるい感じのおじさんが助っ人として現れ、抽象的な言葉でアドバイスしてくれる等。
たまに挟まれるリズと青い鳥の童話パートが癒やしに思えるくらい、あの頃見た――今となっては眩しすぎる――光景でとっても重い。
響け!ユーフォニアムの視聴を頑なに避けていた理由を、これでもかというほど突きつけられたのである。

別に高校時代に嫌なことしかなかったとかではなく、むしろ楽しかった思い出としてキレイに眠らせておいてやりたいとまで思っている。
眠らせておいてやりたいのに、それを生々しい形でほじくり返される感覚が精神を鋭利にえぐり続けるので、視聴している間、筆者は終始額に脂汗をにじませていた。

バリウムに脂汗。あの頃の若さをお前はもう失ったんだぞという無慈悲な刃がまたおじさんの心をゴリゴリ削いでくるってワケだ。

じゃあ面白くなかったワケ?

もちろんそんなことはない。
ただひたすらに重い重いと心が悲鳴を上げながらも、百合として非常に良いものであるという話は聞いていたのでちゃんとその辺りを楽しみはした。

序盤はみぞれからのぞみへの気持ちの重さを目立たせる描写を主としており、リズと青い鳥の童話を二人の見立てとして用意している。
「あ、これは終盤で実はみぞれのほうが青い鳥だとわかるパターンだな」「こっちが重いと見せて、実はのぞみのほうも重いやつでしょ」と思っていたら予想通り。

しかしこの予想通りを踏まえてなお、更に一歩踏み込んでくれたのがこの作品の良いところ。

のぞみとみぞれ、互いが互いにとっての青い鳥であり、互いが互いにとってのリズであったことを、しっかりと示してくれた。
お互いにかごの扉を開ける話だったし、お互いにかごの外へ出る話だったことがわかり、その点ではとっても爽やかな作品であったように感じる。

背景はキレイだしキャラクターは(ちょっと細長い感じはするけど)かわいいしきちんと青春してるし、楽器の動きもめちゃくちゃ作り込んであるしで、おじさんをえぐる重さはあれど、アニメ作品としてもかなり贅沢かつ良質なものであった。

依存から共存へ。互いのかごから出て飛び立つ二羽の青い鳥は、きっと寄り添いながらどこまでも飛んでいけるのだろう。
お話は、ハッピーエンドじゃなくっちゃね!